アメリカ・チェサピーク湾の環境修復:東京湾への考察


翻訳: 山中 結花

米国史における、チェサピーク湾の功績は 多大である。アメリカの首都にほど近く、その河口は 漁業からレクリェーション、軍事、商業港、造船業に至るまで、さまざまな目的のために戦略的に利用されてきた。それと同時に 時の流れの中で、チェサピーク湾と そこに生息する生物は 環境汚染にさらされてきた。海岸線の侵食と汚染、湾岸流域における産業発展、農業の拡大、人工増大は湾の生態系に多くの犠牲を強いてきた。過去20年間、元の自然をチェサピーク湾に復元しようという努力が進められ、それは この地域の多くの住民、企業、政府職員、政治家の優先事項となっている。チェサピーク湾流域は、政治・行政的にも、アメリカ中でも最も複雑な地域のひとつで、実現可能な環境修復のための目標を達成するのには、連邦、州、地方のすべての利害が考慮され、調整されなければならない。

日本の東京湾は、アメリカのチェサピーク湾と類似して、等しく重要な水域である。生態学上、両湾の起源は約12000年前の氷河期末期にさかのぼり、歴史上、両湾は豊富な海産物資源を頼られてきた。チェサピーク湾同様、東京湾も国際貿易と商業の中心地である。日本の首都に隣接して、東京湾は経済繁栄に貢献しているだけでなく、ビジネス、政治の中心に戦略的に位置している。近年、東京湾沿岸はウォーターフロントの復興と観光業の促進という革新的アプローチによって変遷をとげてきた。東京湾とチェサピーク湾の数多くの類似点から、日本の政府職員、科学者、プランナー達がチェサピーク湾の環境修復から学ぶことは現政策や将来の戦略を分析するのに良い参考になるかもしれない。

チェサピーク湾の環境修復に向けたアプローチには以下の事項を含んでいる。1

  • 理論、詳細な知識、モニター、モデルを組み合わせた包括的な科学的研究の実施
  • 明確で、具体的、包括的、かつ測定可能な、期限つきゴールの設定
  • 柔軟性の行使と流域ごとに異なる問題とニーズを提言するための、多様な管理方法の発展
  • 州知事、市長、連法政府機関の行政官、連法議会議員等、最高位のリーダーシップの取り込み
  • 学者、企業、市民グループを含む、広く多様な民間・政府からの参加者の呼びかけとその取り込み
  • 国家、州機関からの財政援助の確保
  • 政府機関内の協力と調整の促進

これらアプローチの多くは東京湾にも適用されるかもしれない。上記イニシアチブの中には現在進行形のものもあれば、すでに終了したものもある。

チェサピーク湾の環境状況は、過去30年間、徐々に良くなっているものの、湾の環境修復に携わっている関係者は多くの問題に直面している。例えば、(都市周辺のスプロール現象、人工増大、地域の土地利用などの)地域発展をどのように取り扱うかは、(とくにウォーターフロントの)土地需要が大きい地域において従来からの、特に複雑な、優先事項である。2 修復プログラムの総合的成功はチェサピーク湾流域のすべての地域社会からの支持が得られるかにかかっている。1983年からチェサピーク湾の環境修復を導き、監督しているパートナーシップからなる、チェサピーク湾プログラムは、湾の環境修復過程における有効な手段となっている。3 同プログラムは 多数の活動を調整する組織的な枠組みを含み、住民参加のための場を提供している。同プログラムを評価して、チェサピーク湾財団の広報部長であるデービット・スレーター氏は、同プログラムの設立は 主要な連邦および州の代表者を一同に集めたという理由において同湾修復において最も重要な成功の一つであると述べている。4

チェサピーク湾修復過程をかんがみて、戦略案や成果が常に起こっていることを念頭に置くことが重要である。地方、州、連邦機関と同様に、多数の個人、組織が、チェサピーク湾に関するさまざまな懸案のためのプログラムや規制を新たに創り出している。地域発展の管理、動植物の保存・保護、環境汚染の減少は、それに費やした時間、資金、資源とバランスの関係にあって、時によってその結果は様々である。今後10年の環境修復努力を盛り込んだ包括的協定である、チェサピーク湾2000年協定(Chesapeake Bay 2000 Agreement) は複雑で無秩序になる可能性のあるこのプロジェクトに 共通の原則と期限つきの目標を提供している。5 常に課題となるのはチェサピーク湾修復のための一歩一歩の過程を達成するのに必要な政治目的と住民からの支持を保持することである。

東京湾地域2600万の住民の利益のための 将来の環境政策・計画が継続して分析されるにあたって、参加者全員による真剣なプロジェクトへの取り組みと 前進のための様々な創造性に富んだアプローチを考慮することが緊急の課題である。アメリカのみならず 日本においても、環境、経済開発、社会事業への資金援助は常に困難が伴う。アメリカで行われているような、自動車の特別ライセンス・プレートの販売によってチェサピーク湾環境修復のための資金を集める方策は、東京湾修復プロジェクトにも適用可能であるかもしれない。経済開発をターゲットにした、持続可能なウォーターフロント開発は理想的な目標ではあるが、短期間で達成するには真剣な取り組みが必要である。生態系の健全さと 経済拡大との微妙なバランスを保つことは常に困難を伴う。東京湾とチェサピーク湾両プロジェクトの関係者が対話を持って助けあうことは 両地域にとって正しいステップとなるであろう。

FOOTNOTES:

1Ann Pesiri Swanson. “Lessons From the Chesapeake Bay Have Applications Elsewhere.” Bay Journal. December 2001.
2Glenn Markwith, DOD Chesapeake Bay Program Coordinator, U.S. Department of Defense: Telephone Interview on January 23, 2002.
3“About the Bay Program.” Chesapeake Bay Program Internet Website. 2002.
4David Slater. Director of Communications, Chesapeake Bay Foundation: Telephone Interview on January 24, 2002.
5“Chesapeake 2000 Agreement.” Chesapeake Bay Program Internet Website. 2002.










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